トレド旧市街には〇〇門と名付けられた何世紀も前に造られた門がいくつもあります。今日はそのうちの一つ、トレドを代表するモニュメントの一つである「ビサグラの門」のお話を。今でこそ、トレド旧市街の宝とまで言われているこの門ですが、一時は人々に忘れ去られそうになったような悲しい過去もあるのです。
«Puerta de Alfonso VI (アルフォンソ6世門) » の名でも親しまれるこの門は、1085年にアルフォンソ6世がトレドをイスラム教徒から奪回した際にこの門から市街に入ったと思われていたためにこう呼ばれるようになったようですが、実際には王はこの門ではなく直線距離にして700メートルほど西に行ったタホ川の手前にあるアルカンタラ門を通ったとされています。
マドリードとトレドの間にラ・サグラという地域があります。この門は、このラ・サグラからトレドまでを繋ぐ道の終わりにある門であったために «Puerta de la Sagra (ラ・サグラの門) » を意味する12世紀のアラブ語で «Bib-Xacra (ビッブサークラと発音します) » と呼ばれ、これがビサグラの門の語源になったそうです。
さて、この門が忘却に包まれそうになった理由の1つとして、16世紀にカルロス1世が時代に適応したルネサンス様式の新しい門を建設したことが挙げられます。現在「ビサグラ新門」として知られるこの新しい門が市内への通過門となり、ここで通行税が回収されるようになりました。そのため、アルフォンソ6世門は擁壁で覆われ使われることもなく、あたかも歴史の残骸かのように市民からは忘れ去られようとしていたのです。
1905年に向け修復工事が行われたため、幸いにもアルフォンソ6世門は息を吹き返します。この修復により今日わたしたちはおよそ1000年の命を持つこの門をくぐることができるのです。
ではここで、この門の建築について見てみましょう。最も目を引くのは街へのアクセスとなるアーチ型の入り口のちょうど上に付けられた横材「まぐさ」です。さらに、西ゴート族の資材を再利用しているという点も興味深いものがあります。また、13世紀には、門の上部にムデハル様式*の変更が加えらています。
20世紀に実施された大規模な修復工事のおかげで現在でも見ることができるこのアルフォンソ6世門。トレドを訪れる際には是非こんな歴史を思い出しながら門をくぐり市内散策を始めてみてはどうでしょうか。
スペイン語ですが、この門にまつわる伝説が読めます。https://www.leyendasdetoledo.com/puerta-alfonso-vi-leyenda-toledo/
*ムデハル様式とは
スペインの建築様式で、レコンキスタの後、残留イスラム教徒(スペイン語: mudéjar)の建築様式とキリスト教建築様式が融合したスタイルである。特徴は建物の壁面に幾何学文様の装飾を施している。中世にキリスト教徒とイスラム教徒が共存するという環境下で生まれた。